急な吐き気や嘔吐の原因として最も多いのは、急性胃腸炎です。夏、冬を問わず通年を通して胃腸炎はよく見られる疾患です。吐き気・嘔吐と同時か少し遅れて、下痢も生じる特徴があります。稀に腹痛が強く診断に苦労する場合がありますが、一時的な症状で改善していきます。

胃の動きが協調しない、また知覚過敏といった機能的な原因により、吐き気や胃もたれを起こすのが機能性ディスペプシアです。カメラで調べても大きな異常が見つからない機能的な病態で、食事に関係した症状「食べるとむかむかする」「食べるとすぐに腹満感が出る」「胃がもたれるために食欲がわかない」といった症状を起こします。原因にあった適切な治療が必要です。

胃や十二指腸の粘膜が胃酸によって深く傷ついた状態で、ヘリコバクターピロリ菌の感染が潰瘍の発生に深く関わっています。軽い吐き気から始まり、徐々に胃痛が増悪し、最終的には食事が摂れなくなります。数年おきに同じ症状を繰り返している方が多くいます。放置すると胃穿孔（胃に穴が開く）を起こし手術が必要になることがあります。

初期のがんには殆ど自覚症状はありませんが、進行すると吐き気や嘔吐、食後の胃痛や膨満感、食欲不振、体重減少を来します。胃がんだけでなく、膵がん、胆嚢がんなどが隠れている場合があり、胃カメラだけでなく、血液検査や腹部エコーも診断に有用です。

胃食道逆流症は胸やけや酸っぱい胃液が上がる症状だけでなく、食後の吐き気や不快感も見られます。内視鏡（胃カメラ）による診断が非常に重要となります。治療法は確立したものがあります。

腸が詰まり、食べた物などが通過せずに溜まってしまう状態です。吐き気、嘔吐、腹痛、お腹の張りが起こります。原因としては、お腹の手術後におこる腸の癒着によるものがほとんどです。腹痛が強い場合には腸自体がダメージを受けている事があり、手術が必要になることがあります。腹部レントゲンや腹部CTが診断に有用です。

長い期間にわたり継続する吐き気や嘔吐の方の中には、メンタルの不調から症状をきたしている事があります。症状は比較的軽く、食事が取れない程ではなく、朝におきやすい、頭痛を伴う、といった特徴もあります。食欲不振がみられても、消化管には全く異常がないという場合も少なくありません。強いストレスや緊張状態が続いている事が原因のことがあり、原因が取り除かれると症状も軽快します。抑うつや不安症状が出てくるようであれば治療が必要と考えます。診断には問診が重要であり、胃カメラ、腹部エコーで異常は見られません。

• 耳鼻科の病気（内耳炎、頭位性めまい症、メニエール病など）も、吐き気や嘔吐を催す原因になります。
• 妊娠初期に起こるつわりは、妊婦の50〜80％が経験します。食欲不振、強い吐き気や嘔吐、においに敏感になるなどの症状がみられます。妊娠の可能性はないか、確認が必要です。
• 虫垂炎の初期症状として、吐き気が起こることがあります。その後、心窩部痛から右下腹部痛に移行し、歩くと響く痛みに増強していきます。
• 脳に異常がある場合に、吐き気・嘔吐が生じることがあります。検査しても異常がなく、メンタル面にも問題がない場合には考慮すべきです。
• 痛み止めの薬や抗生剤、向精神病薬や抗がん剤などの薬の副作用で、吐き気、嘔吐や食欲不振が起こることがあります。