逆流性食道炎
逆流性食道炎
胃の内容物とともに強酸である胃酸が食道へ逆流し、食道粘膜側に炎症が生じたものを逆流性食道炎といいます(胃酸が食道へ逆流するだけでは逆流性食道炎とは呼びません)。
胃や十二指腸は胃酸から粘膜表面を守る防御機能をもっていますが、食道は胃酸に対する防御機能をもっていません。胃酸が食道へ逆流を慢性的に繰り返すことで、食道粘膜に炎症が生じて、胸焼けや喉の違和感などの症状を感じるようになります。
逆流性食道炎は中高年層(40歳以上の方)でよくみられるといわれてきました。しかし近年の食生活の変化、心理的ストレスなどが原因となり、若者の間でも逆流性食道炎が増加傾向にあります。
炎症を背景に出てくる『バレット粘膜』からの発がんが問題となっています。頻度は不明ですが広い範囲のバレット粘膜からは1.2%発がんするとの報告があります。
Matsuhashi N, Sakai E, Ohata K, et al Surveillance of patients with long-segment Barretts esophagus: A mulficenter prospective cohort study in Japan. J Gastroenterol Hepatol 2017; 32: 409-414 (37- 7)
逆流性食道炎の原因としては下記の項目が考えられます。
下部食道括約筋(胃と食道の境界部分にある筋肉)は、食べ物が胃へ運ばれる際に筋肉が波を打つ様に緩みます。高齢・高脂肪食・薬の副作用(カルシウム拮抗薬、亜硝酸塩など)・不規則な食生活が続く、などの理由から下部食道括約筋の収縮力は弱まってしまいます。つまり下部食道括約筋が緩みっぱなしの状態となり、胃酸が食道へ逆流し、食道内で炎症を引き起こしてしまいます。
胸部と腹部との境目には横隔膜があり、横隔膜には食道が腹腔に通るための穴が開いています。この穴のことを食道裂孔と言います。生まれつき、または加齢や生活習慣によって食道裂孔を支えている筋肉が弱くなると、本来腹腔内にある胃が胸腔側へ飛び出してしまい、この状態を食道裂孔ヘルニアといいます。食道裂孔ヘルニアを生じると下図にもあるように胃酸が逆流しやすくなってしまいます。
肥満体型の方やお腹に負担がかかる前かがみの体勢だと、胃が圧迫されてしまいます。下部食道括約筋の機能が正常であったとしても、胃に圧迫が強く掛かってしまうと、胃酸が食道へ押し出される形となって逆流性食道炎を生じることがあります。
睡眠不足、脂肪分を多く含む食べ物、精神的なストレス、過度な飲酒などが原因で胃酸が必要以上に分泌される場合があります。胃酸が必要以上に分泌されるときも逆流性食道炎を招きやすくなってしまいます。
「胸焼け」は逆流性食道炎の典型的な症状です。食道粘膜は胃酸に対する防御機構をもっていないので、胃酸が食道へ逆流すると食道粘膜上で炎症(胸が焼けるような強い痛み)が生じます。
その他の症状としては慢性的な喉の違和感、胃痛(心窩部痛)、吐き気、胃もたれ、嘔吐、慢性的な咳などの症状があります。
逆流性食道炎は治療しないでいると、食道がん(腺がん)を招く場合もあります。日本では扁平上皮がんが多いですが、最近では逆流性食道炎を背景にした腺がんが増えてきています。内視鏡の所見が大変重要です。がんのリスクのある粘膜なのかを確認する必要があります。
逆流性食道炎の治療では主に薬物療法と生活習慣の改善指導を行います。
薬物療法の場合は胃酸分泌を抑える薬(プロトンポンプ阻害薬など)を処方します。難治例に対しては、運動機能改善薬を併用することでより高い効果が期待できます。長期的な服用に関しての安全性やリスクは、まだ、わかっていない部分もあります。
まずは生活習慣の改善のため、以下のようなアクションプランを行いましょう!
1週一回以上、30分以上の軽い運動(ジョギングなど) 軽度の運動で逆流性食道炎のリスクを下げる報告があります。(*1)
脂質、甘食、アルコールなど控える
内臓脂肪の減少により腹腔内圧が下がり逆流がへると考えられています。
喫煙は下部食道括約筋の圧を低下させて逆流を増やします。
就寝前3時間位内は逆流性食道炎の危険因子であることが明らかになっています。(*2)
ストレスや睡眠不足で食道が知覚過敏となり、逆流症状を感じやすくなります。(*3)
(*1)Nilsson M, Johnsen R, Ye W, et al. Lifestyle related risk factors in the aetiology of gastro-oesophageal reflux. Gut 2004; 53: 1730-1735(ケースコントロール)
(*2)Fujiwara Y, Machida A, Watanabe Y, et al. Association between dinner-to-bed time and gastro-esophageal
reflux disease. Am J Gastroenterol 2005 ;100: 2633-2636(ケースコントロール)
(*3)Fass R, Naliboff BD, Fass SS, et al. The effect of auditory stress on perception of intraesophageal acid in
patients with gastroesophageal reflux disease. Gastroenterology 2008 ; 134:696-705
当院では胸焼け、胃もたれ・吐き気、喉の違和感を症状とした逆流性食道炎に専門性を持って診療しております。
薬剤抵抗性の方は外科的治療、内視鏡的治療(現在保険治療ではありません)に関してご提案いたします。発がんや、生活の質(QOL)低下にも繋がる疾患です。些細な症状でも構いませんので、ご相談いただければと思います。軽症から薬剤抵抗性まで適切に治療しております。
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