便秘症の治療
便秘症の治療において、生活習慣の改善は基本となります。生活リズムを整えることで、自律神経が整うため、排便を規則正しく行うことにつながります。
食物繊維の摂取
水溶性、不溶性繊維の摂取は、便秘の非常にエビデンスの高い治療になります。不溶性繊維は便の量を増やし、腸の蠕動運動を促進します。
更に水溶性繊維は腸内の善玉菌のエサとなり、腸内環境を改善させるのに有効とされています。(プレバイオティクス効果:後述)
多くのガイドラインでは、1日20~35gの食物繊維摂取を推奨しています。
これらの量は、あくまで目安です。食物繊維摂取が便秘症に有効なのは摂取量が不足している時のみとの報告があり、多く摂取したから効果が増すことはないようです。摂る過ぎには注意が必要です。
キウイフルーツ、プルーン、サイリウム(オオバコ)を摂取した際、どれも自然排便率、排便回数の増加を認め、慢性便秘症に対する有効性が示されています。
適度な運動
適度な運動、特にウォーキングや軽い有酸素運動は、腸の蠕動運動を活性化させ、排便を促進します。体操、ストレッチなども良いでしょう。
- 週に150分程度の軽から中強度の運動が推奨されています。
- 複数の研究で、運動習慣を持つ人は便秘のリスクが低いことが示されています。
プロバイオティクス(腸内細菌を取り込む)
健康に有益な効果をもたらす「生きた微生物」と定義されています。善玉菌そのもの、または死んだ善玉菌を数日の間、体内に取り込むことで腸内環境が整います。
特にビフィズス菌やラクトバチルス菌が効果的とされ、排便回数や便の硬さを改善する報告があります。ただし、効果の大きさには個人差があります。副作用がありませんので、安全に取り入れられる治療です。
食品
- 納豆
- ヨーグルト
- キムチ
- 納豆
- 味噌
- ぬか漬け
- 酒かす など
プレバイオティクス(腸内細菌のエサを取り込む)
善玉菌を増やし、活性化させて腸内環境を改善させる成分。オリゴ糖などが有名ですが水溶性食物繊維が注目されています。水溶性食物繊維は善玉菌のエサとなり酪酸を産生します。この酪酸は腸管運動を亢進させるセロトニン産生を促します。
水溶性繊維を多く含む食品
- 海藻類(寒天、わかめなど)
- オートミール:燕麦(えんばく)を脱穀して調理しやすく加工した食品です
- 大麦
- りんご、柑橘類、ベリー類
- 豆類(レンズ豆、インゲン豆など)
- アボカド
- オクラや山芋
※シンバイオティクスという考え方があります。プロバイオティクス食品とプレバイオティクス食品の両方をバランスよく摂取して、腸内環境の改善に効果的にアプローチする考えです。
※糞便移植が便秘の改善に有効であることも少なからず報告がありますので、腸内細菌叢や腸内代謝物が便通に関わっていると予測されますが、詳細はわかっていません。自分の腸内細菌叢にはどんな食べ物が便秘の解消に繋がるのか色々と実践してみてはどうでしょうか?
水分摂取の増加
- 十分な水分摂取は便秘改善に役立ちます。1日1.5~2リットルの水分を摂取することが推奨されます。
- 水分摂取が便の軟化を促し、排便をスムーズにすることが言われています。特に水溶性繊維を摂取している場合には水分摂取が重要です。
腹部マッサージ
前向き研究で1日15分、週5回の腹部マッサージが慢性便秘に有効との報告があります。マッサージの基本は、大腸走行に沿ってゆっくりと円を描くように行うことです。以下の手順で実践してみてください。
腸のマッサージ方法
- 仰向けに寝て、膝を軽く曲げリラックスした状態を作ります。
- 右の下腹部(おへそから右側の下)に手を置き、軽い圧力をかけながら時計回りにゆっくりと円を描くように、左下腹部にかけて大腸の走行に合わせてマッサージをします。圧のかけすぎに注意です、リラックスして行いましょう。
- 最後はうつ伏せになる時間を作ります。S状結腸から直腸へのガスが移動し、腸の蠕動を促します。
- 排ガスを促すことにより、続いて便意が起こりやすくなります。
薬物療法
近年はさまざまなタイプの新規薬剤が発売され、便通障害に有効な漢方薬など非常に幅広い治療が可能となってきました。
ポリエチレングリコール(PEG)
商品名: モビコール
(浸透圧性下剤)
浸透圧によって腸内に水分を引き込み、便を柔らかくして自然な排便を促進します。水分の吸収を抑制し、便の量と水分を増やします。長期使用が比較的安全とされています。
酸化マグネシウム
商品名: マグミット
(浸透圧性下剤)
浸透圧によって腸内に水分を引き込み、便を柔らかくして排便を促進します。比較的穏やかな作用で、長期使用にも比較的安全です。特に高齢者や腎機能が低下している方は血清マグネシウム値の測定が必要です。
腸管内のクロライドチャンネルを活性化して、水分の分泌を増加させ、軟便化して排便を促します。若い女性に多い頭痛の副作用があり注意が必要です。
ルビプロストン同様にクロライドチャンネルを活性化し小腸で分泌を増加させることで、便の水分量を増加させ、腸管運動を促進します。便秘型過敏性腸症候群に有効とされています。印象としては下痢になってしまう方が多く、調節の難しい薬です。
刺激性下剤(アントラキノン系)
商品名: プルゼニド、センノシドなど
大腸を刺激して蠕動運動を活発にし、排便を促します。天然成分のセンナから抽出される薬です。とても効果的な薬ですが、長期間使用すると腸が薬に依存しやすくなるため、短期的に使用することが推奨されています。
便秘に有効な漢方薬はおおよそ10種類ほどあります。それぞれに特徴があります。
上記以外にも様々な薬があり、新薬も続々と出ています。それぞれの薬に特徴があり、効果は使用してみないと判断できないことが多いです。
組み合わせて使用することで効果的に働くこともあります。
患者様ごとに『合う・合わない』と言った印象もありますし、初回の処方で決定されることは、ほぼありません。トライとエラーを繰り返し、気長に行っていく治療です。