2025年7月09日

大腸憩室ってなに?
「憩室(けいしつ)」とは、大腸の壁の一部が外側にポコッとへこんだ洞穴状のくぼみです。特にS状結腸や上行結腸にできやすく、日本人では年齢とともに増えていきます。
最近の調査では、60代で約半数以上、80代では7割以上の方に憩室があるとされています。
多くの場合は自覚症状がなく、検診や内視鏡検査などで偶然見つかることが多いです。
憩室があると何が問題か?
ほとんどの方は何も問題なく過ごせますが、時に「憩室炎」や「憩室出血」といった合併症が起こることがあります。
①憩室炎(けいしつえん)
憩室炎とは?
憩室に便が詰まり細菌が感染し、炎症を起こす状態です。
腹痛や発熱、吐き気などの症状が出ます。
重症の場合は入院や手術が必要になることもあります。
憩室炎を起こす人はどれくらい?
実は憩室があっても9割以上の人は炎症を起こしません。
大腸憩室を保有している人のうち、憩室炎を起こすのはおよそ5~25%とされています。ただし、最近の研究では10%未満という報告が増えており、実際にはそれほど高頻度ではないと考えられつつあります。
憩室炎のリスク因子
憩室炎の発症には以下の因子が関与しているとされます
リスク因子 | 内容・補足 | 根拠・報告 |
---|---|---|
低食物繊維摂取 | 便通悪化による内圧上昇 | 複数の疫学研究 |
肥満 | 腸内環境の変化・腹圧上昇 | BMI30以上でリスク増大(AJG 2008) |
喫煙 | 腸管血流・炎症反応に影響 | 喫煙者は非喫煙者の約1.5倍 |
NSAIDsの常用 | 粘膜障害→穿孔・炎症 | 再発率・重症化率も増加 |
運動不足 | 腸蠕動低下、腸内環境の悪化 | 有酸素運動でリスク軽減(Nurses’ Health Study) |
便秘傾向 | 腸内圧の上昇 | 排便回数少ない群でリスク上昇 |
赤身肉の過剰摂取 | 炎症性腸内代謝産物との関連 | 加工肉よりも未加工の赤肉が高リスク(Gut 2017) |
腸内細菌叢の乱れ(dysbiosis) | 炎症の誘導やバリア障害 | 今後の研究分野 |
大腸憩室炎の治療
憩室炎は、憩室に便が詰まったり細菌が感染したりして炎症を起こす状態です。
症状は主に左や右下腹部の痛み、発熱、吐き気などがあります。
治療は「軽症」「中等症以上」で分かれます。
軽症の場合
- 自宅療養(外来対応)
- 食事制限(1~2日絶食またはおかゆなど消化のよい食事)
- 飲み薬の抗菌薬
- 安静と水分補給
中等症~重症(高熱・強い腹痛・白血球↑)の場合
- 入院治療
- 点滴での抗菌薬投与
- 絶食+点滴での栄養・水分管理
- 腹膜炎・膿瘍形成があればCT下ドレナージ(排膿の処置)
- 穿孔(腸に穴)や膿瘍破裂時は手術が必要になることも
治療後の対応
- 約6~8週間後に炎症が完全に治まったら、大腸カメラを受けて、大腸がんや炎症性腸疾患(IBD)との区別を確認します。
- 再発防止には、便通のコントロールや食生活の見直しが大切です。
② 憩室出血(けいしつしゅっけつ)
憩室出血とは
憩室内にある血管が破れて、突然真っ赤な血便が出ます。通常、痛みはありません。
多くは自然に止まりますが、出血量が多いと輸血や止血処置が必要になることもあります。
憩室出血は5〜15%の人に起こるとされ、特に高齢者や薬の影響を受けやすい方では注意が必要です。造影剤を用いた腹部造影CT検査で出血部位が同定出来る事があります。
大腸憩室出血の治療
憩室出血は、出血量が多いと血圧低下や貧血の症状が出ます。
治療は「出血の量・患者さん状態(血圧など)」により異なります。

軽症の場合
- 安静と経過観察
- 血液検査で貧血がないかチェック
- 出血源の確認のため大腸内視鏡検査(大腸カメラ)を受ける
出血が続く or 再発する 場合
- 緊急内視鏡による止血(クリッピングなど)
- 点滴による水分・栄養補給
- 出血が多い場合は輸血が必要なことも
- 内視鏡で止血できない場合カテーテルによる血管塞栓術(IVR)
- まれに手術による出血源の切除(結腸部分切除)
憩室炎・出血を防ぐための生活習慣
腸にやさしい生活が、炎症や出血のリスクを減らす鍵です。

食事のポイント
- 食物繊維を多くとる:野菜・果物・海藻・
豆類・全粒粉のパンなどを毎日とる。 - 25-30g/日摂ることが推奨されています。
高食物繊維でリスク58 %減の報告あり。 - 水分をしっかりとる:
目安は1日1.5〜2リットル - 赤身肉や加工肉を減らす:週1~2回程度までに。男性でリスク上昇の報告あり。
- ※ナッツや種子は制限不要です(現在は制限のエビデンスなし)
生活の工夫
- 適度な運動正常BMI維持:ウォーキングやストレッチを週3〜4回以上 週150 分以上の中等度有酸素運動で腸管通過時間を短縮の報告があります。
- 便秘を予防する:無理にいきまず、自然な排便を。
- 喫煙をやめる・アルコールを控える。
- 体重管理:BMIを25未満に保ちましょう。
薬に注意
- SAIDs(ロキソニンなど)やアスピリンは、出血・炎症のリスクを高めることがあります。
長期使用中の方は、自己判断で中止せず、医師にご相談ください。 - 抗凝固薬(ワーファリン、DOAC)や抗血小板薬(バイアスピリンなど)を使用中の方は、 出血リスクが高まるため、定期的なチェックと必要に応じて服薬調整を行います。

すでに憩室があると診断された方
憩室があること自体は病気ではありません。以下の点に注意しながら、健康的な生活を心がけましょう。
- 突然の鮮やかな血便が出たときはすぐに受診してください。
- 腹痛や発熱が続く場合も、憩室炎の可能性があります。
- 歩くと響く痛みがある時は医療機関を受診してください。
- 長期間便秘がある方は、下剤に頼りすぎず、食事や生活習慣での改善を優先しましょう。
最後に
憩室炎も出血も、適切に治療すれば多くの場合は回復します。
憩室炎を過去に発症したことがある人の再発は約20~30%といわれています。
繰り返さないためには日頃の予防がカギです。
(大腸憩室があることで大腸がんになりやすくなる訳ではありません。)
大切なのは、憩室と「どう付き合っていくか」
生活習慣を少し見直すだけでも、憩室炎や憩室出血のリスクをぐっと減らすことができます。
また、ご自身の健康状態もぐっと良くなることでしょう!

心配な症状がある場合は、いつでもご相談ください。
大腸カメラをしないと気づけない疾患です。
自分の大腸の状態を知り、予防することが何より大切と考えます。
参考ガイドライン・主要文献
- 日本消化管学会『大腸憩室症(憩室出血・憩室炎)ガイドライン』2017
- World Society of Emergency Surgery (WSES) Guidelines 2020
- Recent Japanese CTC prevalence study 2021
- 高食物繊維摂取とリスク低減メタ解析

監修 矢原青 やはらせい
医師 鶴見東口やはらクリニック 院長
消化器内視鏡学会 専門医・指導医
これまでに5万件以上の内視鏡検査・内視鏡治療を経験。
略歴)
横浜市立大学附属市民総合医療センター内視鏡部
松島病院大腸肛門病センター
横浜JR鶴見駅近く、眠ったままの内視鏡検査の鶴見東口やはらクリニック